鷺山啓輔さんの新作はタイトルが「美しき天然」となった。

これは実は曲名で、チンドン屋さんといえば私たちが思い浮かべる定番のメロディー、田中穂積作曲、武島羽衣作詞の唱歌。鷺山さん曰く実は歌詞があってそれが実に深く真摯な自然への頌歌になっている。作品中で私はこれを最後に歌詞なしの Vocaliseで歌わせていただいた。

「 空にさえずる 鳥の声
峯(ミネ)より落つる 滝の音
大波小波 とうとうと
響き絶やせぬ 海の音
聞けや人々 面白き
この天然の 音楽を
調べ自在に 弾きたもう
神の御手(オンテ)の 尊しや」

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コロナ禍の影響で通常の制作形態やプロセスがとれないことの中で、鷺山さんはそういう状況ゆえのまた新たな試みを模索された。会期中にこれられた方々が作品を見た後での、主に海をめぐるその方の思い出やそれに連なる思いを語っていただき、それを作品の中の声に加えていった。

それぞれの方の話の内容が初めてきくような、一見海ともつながらないような深みや切り口、個人性を持っている話だったりする。それが鷺山さんが凝視して集めた自然映像の母体の流れの中で聞こえてくるとき、人の思いや悩み、特異な感情やとらわれの思考も、自然の中で勝手に枝葉を広げている樹木と同じ「自然」「天然」なんだとすとんと腑に落ちて、感じることができた。

鷺山さんのもの静かなまなざしと、厳かな制作の熱意が見ている地平が、やっと少しずつ分かりかけてきたようにも思う。
「自然」の意味する領域が、人間のいのち、存在や内面にまで柔く、しなやかに広がっていることを観念でなく、感じ始めている。

映像の中からの絵葉書セットも買わせていただいた。

上記のシーンは、「美しき天然」ではなく、”GLOW IN THE DARK”の中のステキな親子のシーン、この作品も本当にすばらしかった!

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鷺山さん、OnGoing のスタッフの皆さま、本当に貴重な時間と体験をありがとうございました!

鷺山啓輔 OnGOing 個展情報